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「このまちを担っていく次の世代のためにも、元気な下田をつくっていきたい。」(株式会社 山本建築 代表 山本剛生さん)

大工さんなどの建築現場の職人さんってどんなイメージでしょうか?
少なからずは…ちょっとヤンチャなイメージがあるかもしれません。
そんな職人さんを束ねる工務店の社長さんなんていうと、そうしたヤンチャさんたちの「ボス」なわけで、さぞかし迫力のある人では…?と想像してしまいます。
今回、下田に根付いて仕事をされている工務店「株式会社 山本建築」の代表 山本剛生さんに、地域についての思いなどのお話を伺うことになりました。
現役の大工さんでもあり、工務店の社長さん…ということで、上で述べたような少なからずはヤンチャ系の迫力のあるお方なのだろうなと思い襟を正してインタビューに向かったのですが…。
そこにあらわれたのは、イメージとまったく正反対ともいえる腰の低い優しさオーラで包まれた方で(イメージって怖いですね。大いに反省。)、お話を伺うと、考え方も「地域に対する優しさ」にあふれていて、感心しっぱなしのインタビューとなりました。

日々、自分のことで精一杯となってしまっていることを反省するほどに地域愛にあふれた山本さんのお話、是非ご覧ください。

丁寧な仕事ぶりからリピーターや紹介の方の工事を中心に大忙しの山本さん。

まずは…自己紹介をお願いします。

1972年、神奈川県川崎で生まれました。
今(2023年現在)51歳です。
もともと、父親は南伊豆出身なのですが、仕事の都合もあって川崎で大工をしていました。
でも、自分が2歳の時に川崎の環境が原因でぜんそくを発症してしまい、それを機に父親の地元に近く環境もよい下田に移り住みました。
ということで、厳密には生まれは川崎ですが、ほとんど覚えていないので下田が地元という感じです。
稲生沢小学校、中学校、下田北高校(今の下田高校)と通って、下田を離れ浜松の大工の職業専門学校に、卒業後は神奈川の工務店に大工見習いとして住み込みで働きました。
小学校の頃、下田の自宅を父親がつくっていてその姿をよく見ていて、自分もなんとなく大工になるのだろかな?という感じで進路を自然と決めていたんですよね。
とはいっても、当初は大工以外、建築以外の道もあると考えていたのだけど、やってるうちに楽しくなって他の選択肢がなくなっていったように思います。
専門学校では座学でいろいろ勉強させてもらい、工務店の現場で技術の基礎を習得して、成長するのにとても良い環境でした。
神奈川での住み込みを終えて、下田に戻ってきて父親の元で大工をして、2000年28歳の時、個人事業で独立。
当時、それなりに現場での経験は積んでいたので現場のことについてはわかるけど、社会のルールがわからず、お金に関することとか礼儀とか…で、苦労しました。
でも、父から継いだ仕事があったので事業としては順調で、だんだんと社会のルール的なことも覚えていって。
2011年に個人事業を卒業し、「株式会社 山本建築」を設立させました。
個人事業だと収益をあげても個人のものになるのだけど、工務店の仕事は一人では出来ません。
そこが気持ち悪くて株式会社にして、収益をちゃんと会社のものになるようにしました。
で、今に至る…という流れです。

お話を伺ったのは大沢にある山本建築さんの事務所。ウッディな内装で落ち着ける雰囲気でした。お忙しいところありがとうございます!

やっていて楽しくなり他の選択肢がなくなっていく…って素敵な進路の決め方ですね。
では、今の事業内容とそのやりがい、目標を教えていただけますか?

事業としては、下田は観光地なので場所柄、店舗や宿泊施設改修のご相談もたくさんいただきますが、住宅の新築やリフォームリノベーションがメインです。
そして、まだまだこれからですが「ショップボット」という木材加工機を導入したので、それを使った家具や看板の仕事も増やしていきたいとも考えています。
自分の他に企画や事務などのデスクワークが2人、大工さんが2人という体制です。

ご相談いただいくと、まずは企画してイメージを共有し、それを気に入っていただいたらば、現場でカタチにしていきます。
ゼロからのスタートですので、イメージ通りに出来上がるとお客さんはとっても喜んでくれて。
その時には「やった!」という気持ちになりますね。

当面の目標は2つあります。
ひとつは職人の育成。
もうひとつは建築という「ハコ」をつくるだけに終わらない「場づくり」をしたい、ということです。

職人の育成については、地域に大工や建築の職人がちゃんといるというのはある意味、インフラとしての必要な役割でもあると思っていて。
日常においても、住宅だったり施設だったりは更新しなければ維持できませんし、何より、災害後の復興においては、職人が足りてない地域はいつまでも屋根がブルーシートのままだったりもしています。
でも実際には少子高齢化に伴って職人はどんどん減少してしまい。
もちろん人口減少の時代なので減るのはやむ得ないのかもしれないのですが、その減り方が釣り合っていなくて…。
要するに職人になる若者が少ないんですよね。
でもそれって、職人のイメージの悪さの影響もあるのかなと思っていて。
修行期間が長くて辛い…とか、ちょっとヤンチャな人が幅をきかせる縦社会のイメージ。
そんな概念を変えて、「モノづくりの楽しさ」を若い世代に伝えて、職人を育てていきたいです。

こちらは山本建築さんで手掛けたリフォーム施工事例。
既存の「味」を活かしつつリノベーションされたそうです。素敵!

すいません…そんなイメージ少なからず持っていたかもしれません!
山本さんにお会いしてそのイメージがいかに間違っていたか痛感しまくっております。

そう言ってもらえるとうれしいなあ。
でも本当に「モノづくり」って楽しいですし、大工の技術って身につけたら一生もんですので、若い人には是非、大工さんになってもらいたい!(笑)
そんなモノづくりのハードルを下げていくのも大切だろうと、最近「ショップボット」という木材加工の機械を導入しました。
これまでだったら長年修行しなければ出来なかったような複雑な加工も、データを入力してしまえば簡単にできる凄い機械です。
今は別業界から転職してきてくれた女性スタッフが、ショップボットを使って、家具や看板などをつくってくれています。
結構高かったのですが…とはいっても車を買うくらい?で、自分は軽トラがあれば十分だし、職人不足を補いつつ、モノづくりのハードルを下げてその楽しさを知ってもらうキッカケになったらと考えたら安いもんかなと。

こちらがショップボット。データを入力すると…
正確に加工してくれます!
最後はやはり手作業で仕上げる。このひと手間が大切だそうです。
ショップボットで制作した造り付け家具が特徴的なシェアハウス。
長年、職人として培ってきた技術や経験があるからこそ、こうした機械をより活かせているのでしょう。

そして、「場づくり」について…。
どうしても工務店というと、建築という「ハコ」をつくって終わりという事が多いのですが、完成後にいかに活き活きとした場となるか?ということにこだわって建築を関わっていきたいと思っています。

「場づくり」といえば…山本さんは巨大空き倉庫をリノベーションした地域活性の拠点施設「with a tree」のオーナーさんでもありますね。こちらは、どういった経緯、思いで所有されているのでしょうか?

2019年に市内にできたワーケーション施設の施工をさせてもらいました。
その縁もあって、ワーケーションで下田に滞在する人たちとつながりが出来はじめて、その頃からいろいろと変わってきました。
地域で人材が確保できないなら、地域外の方たちがもっとこの地域に来てもらえるような場があればいいのでは?とか、その場でモノづくりの楽しさを感じてもらえたらよいのでは?と感じるようになり。
そんな時に、この巨大倉庫の話が舞い込んできて、実用的には倉庫は足りていたのですが、立地や雰囲気が面白くて、これは良い「場」になる!そんな『可能性』を感じて…購入を決断しました。
もちろん、その決断には勇気がいりましたが、決断の後押しをしてくれたのが、幼馴染でもありよきビジネスパートナーでもある梅田(直樹さん)でした。
彼は、当時はワーケーション施設の運営に携わっていたのですが、今は全力でこの場を人が集まる場、何かがはじまる場にしようと動いてくれていて…想像以上の展開になっています。

購入当時の「with a tree」。
元々は建材会社の事務所兼倉庫だったそうです。確かに「場」としての可能性を感じます。
梅田直樹さんとは幼稚園の時からの付き合い。こうした長く太い関係を続けている方が多いのも「小さなまち下田」と特徴かもしれません。
「with a tree」にて行われた、梅田さん主催による都市部企業人と地域人材、地元高校生、ワーケーションで下田を訪れている人たちとの交流イベント。
ハコをつくって終わりではない「場づくり」の大切さを感じます。

山本さんは、すごく地域の事を考えて行動されていますね。
なかなかそこまで出来ないと思うのですが、その原動力はどこにあるのでしょうか?

実は…あまり自分の事には欲がないんです。
例えば、さっきも言ったけど車は軽トラで十分だし。
でも、地域のこととなるとパワーが出るのです。
やれることは何だろうか?って。
今、東京に出て大工の勉強をしている息子がいます。
下田に帰ってきてまちが元気じゃなかったら…仕事がないだろうし、まちが元気だって職人がいなかったら建築はつくれない。
そうなったら申し訳ないという思いがあります。
誰でも自分の子どもの為なら自分事と思って動くじゃないですか?
そんな感じで、下田のためにやれることはやっていこう!と思っています。

下田のシンボル的な建物のひとつでもある駅前の土産物店・レストランカフェ「下田時計台フロント」の2019年のリニューアル工事は山本建築で施工されたそうです。

そもそもは、下田は他のまちと比べてとにかくポテンシャルが高いと思っていました。
海や山、自然のきれいさ、港町であり食も豊かで。
開国の町ならではの開放的な人柄。
でも、地域外の人と交流するようになって、その魅力を知らない人が多いとも感じました。
特に若い人たちには知られていない。
まずは、もっとたくさんの人に下田に来てほしい!
来てくれたら魅力がわかってもらえるはずと思いますし、「with a tree」がそのキッカケのひとつになってほしいと思っています!
とにかく…まだまだ下田には可能性がたくさんあって、伸びしろが大きい。
やれることをやって、このまちを担っていく次の世代のためにも元気な下田をつくっていきたいです!

取材を終えて…
今回、山本さんにお話しを聞いて、あらためて下田の問題点を感じることも多くありましたが、それにも増して、このまちの可能性に嬉しくなりました。
「自分事のように下田のためにやれることはやっていこう!」
一見、綺麗事のようにも感じてしまう言葉ではありますが、行動でしめしてくれている山本さん。
山本さんと話していると、このまちの未来は明るい!そう思えてきます。
お忙しいところ、ありがとうございました!