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下田のクリーニング業者が三島にベーカリーを出店…!?コロナ禍で大打撃を受けた本業、スタッフの雇用確保のための決断とは?中田クリーニング代表 中田衛さん

2020年から流行した新型コロナウィルス感染症。
当初は全国的な休校や緊急事態宣言もあり、また『三密』や『不要不急』という不思議な言葉も聞くようになって、観光なんてもっての外…という状況となり、観光が主幹産業であるここ下田は窮地にたたされました。
人を迎え入れなければ成り立たない地域なのに、迎え入れることができない。
いつまでこの状況がつづくのか?全く見えない状況だった頃の気持ちを思い出すと、なんだか胸が締め付けられるような感じさえします。

夏の下田、最大の集客を誇る白浜大浜海水浴場。
’20年の夏は、感染が広がらないよう様々な対策をして海開きしました。

もちろん、新型コロナウィルス感染症はまだ完全に収束したわけではありませんが、昨年の5月に第5類に移行されてからは、ここまでの対応をするフェーズではなくなったことは明らかです。
あの日々を思い返して、「こんな時もあったよね。あの時はキツかったね…」という懐かしむ感じにさえなってきました。
でも、私個人の話でいうと観光地に暮らしているとはいえ、直接観光産業に携わる人間ではありませんし、ましてや人を雇用しているわけでもありません。
当時、観光業でスタッフを雇用をしていた事業主さんの気持ちを考えると、自分の胸の締め付けられ具合なんて小さなものな気もします。
今回は、そんな厳しい状況の中、『スタッフの雇用確保』を考えた末に、本拠地の下田を離れた三島の地で、本業のクリーニング業とは別の業種、ベーカリー…つまりは『パン屋』で出店された『中田クリーニング』代表の中田 衛(まもる)さんにお話をうかがってきました。
クリーニングが観光業?と思われるかもしれませんが、中田さんは宿泊施設のリネンのクリーニング業者で、つまりは、お客さんと接するような観光業ではないのですが、観光業を下支えするような業種です。
観光業というと第一線でお客さんと接する宿泊業や飲食業をまずはイメージしてしまいますが、こうした様々な仕事があって、はじめて観光業が成り立つともいえます。
そうした業種の方々もコロナ禍は本当に厳しい状況にたたされていました。
ということで、三島に出店された『嵜本(さきもと)ベーカリー』静岡三島銀杏並木店にお邪魔して、その想いを聞いてきました。
是非、ご覧ください!(お話をうかがいながら、『かっこいいっす…』って何度も漏らしてしまいました…)

目玉商品は高級食パン!のベーカリーということで、雰囲気もとても素敵です。


—— 今日はよろしくお願いいたします。
…こちらにお邪魔するのははじめてなのですが、すごく素敵ですね。
店につながる通り(通称 日大通り)のイチョウ並木の雰囲気も良く、この素晴らしいロケーションも相まって、お店に入る時にワクワクしてしまいました。
こちらに訪れた方は、このお店が下田のクリーニング業者さんがやられてるとは思われないでしょうね。
では、本業のクリーニング業の話や、なぜクリーニング業から下田を離れて三島でのベーカリー出店に至ったのか?
そのあたりの話を中心にお聞かせいただければと思います。

日大通りのイチョウ並木を抜けてすぐの場所にあります。

よく、なんで三島でパン屋?と聞かれるので、是非是非お話しさせてください!
そもそもは、家業の吉佐美(下田市吉佐美地区)のクリーニング店を親から引き継いで、厳しい時もありましたが順調に業績を伸ばしていました。
クリーニング…といってもウチは宿泊業者さん向けのリネンのクリーニングですので、いわば観光地下田を下支えする、縁の下の力持ちのような仕事だと思っています。
でも、うちのような業者がいるから、観光業は成り立つわけです。
そんな意味では自分の仕事に『誇り』を持って取り組んでいました。
ただ、吉佐美の店の設備や広さでは、おける機械も限られていることから、こなす量に限界を感じていて。
もっと地域の宿泊業者さんの要望に対応したい想いがあったのですが、なかなか追いつかないという現状がありました。
そんな時に、東伊豆の工場物件に空きが出て、見に行くと機械を置くのにもちょうどよさそう…!ここだ!と決断し、工場を新設しました。
2015年のことです。
そして、大型の機械を導入したこともあり、これまでの手作業に比べて3倍のスピードでリネンのクリーニングをこなせるようになりました。

東伊豆工場外観。もともとは学校給食の炊飯センターだったそうです。

東伊豆という立地もあって、営業エリアも広げることが出来て、ありがたいことに事業は順調にいっていたのですが…。
コロナ禍となって状況は一変しました。
観光業に携わる業者さん、直接的にお客さんと接する宿泊業や飲食店の厳しさはよく報道されていましたが、我々のような観光を下支えする業種ももちろん厳しくて…本当にしんどい時期でした。
そんな中でも、スタッフを雇用していたので、とにかく、雇用を守らなければ!どうにかしなければ!…と考えに考えて…。
観光業とは別の業種、生活に必要なモノ事を扱う事業をと考え至ったのが、ベーカリーでした。
観光需要はこうして波がありますが、どんな状況でも人は食事をとります。
そんなことが決め手となって辿りついた業種でした。
とはいっても、パンの製造やベーカリー運営のノウハウがある訳ではありません。
そんな状況で飛び込んで成功するような甘い業界ではない、という覚悟もあったので、本部のノウハウを活用できるフランチャイズに加盟することを考えました。
そして、もう一つの大きな決断が…三島で出店ということです。
コロナ禍で大打撃を受けている地元、観光のまち下田をどうにかしたいという想いも強くあったのですが、でも、ベーカリーを出店する場所としては、下田よりも商圏人口の多い三島を選びました。
スタッフの雇用を守るため、事業の安定性を考えての決断です。

焼き立てパンの香りがたまりません。

—— そうした想いからの三島でベーカリーの出店だったのですね。
スタッフを雇用していてのコロナ禍突入…自分には想像できないようなプレッシャーがあったのかと思います。
コロナ禍での出店ということで苦労もあったのではないですか?

ありましたよ、すごく。
移動の制限…なんて言われていた時もあったくらいですから、物件を見に行くのだってなかなか思うように出来ませんし、フランチャイズの本部とのやり取り、研修などもスムーズには出来なかったです。
なので、想定よりも随分と準備に時間がかかってしまいました。
でも、最終的には良い場所に出店することが出来て、厳しい中動いた甲斐があったと感じています。

—— あの沈んだ空気の中で、新規事業を新天地で立ち上げる…すごい決断力と行動力に感心…というか感動しています!
これからも新規事業をお考えだったりするのでしょうか?

新規事業…とまではいえないかもですが、実は、東伊豆工場では地下水をくみ上げて利用していて、その水がとってもおいしくて!商品化、つまりはミネラルウォーターとして販売をはじめています。

東伊豆町内の他、インターネットでも販売されています。

—— 水の商品化!クリーニング業は確かに水をたくさん使いそうですから、敷地内の地下水が使えるというのは随分と助かりそうです。
よく、そんな条件のよい工場がありましたね。
地下水がくみ上げられることを工場の条件として、物件を探したのですか?

その通りでクリーニング業は水を大量に使います。
なので、地下水を使えるというのは本当にありがたいです。
でも、地下水が使える物件を探したわけではなく、実はウチがここで工場をはじめることになってから、敷地内を地下水が出るまで掘ったのです。
出るまで1か月くらい掘ってました。
近場で地下水が出ているということで、掘れば出るはず…と言われてはいたのですが、水が出た時にはホッとしましたよ。
その地下水がとってもおいしくて…もちろん検査をしたら安全性もバッチリで。
近隣の業者さんの協力をえて、ボトル詰めして商品化しました。
東伊豆町内のホテルさんなどでお出しするミネラルウォーターとして使っていただいています。

—— 水も地元のを使ってるって、観光に来られた方も気分が盛り上がりますね!
ところで…1か月掘ってたのですか?
それで出なかったら…と考えると、気が重くなります。
先ほどのベーカリーの三島出店の話もそうですし、中田さんの事業の進め方、広げ方は、もちろん様々な情報を集めて決断をされているのでしょうけど、その決断に『思い切りの良さ』があって、なんだか…カッコいいです!

いやいや、そんなことはないですよ。
その時その時の最善をつくすことを考えて動いているだけです。
結果としてそれがいい方向に行くときもあれば、そうでない時もある、というだけの話で、常に試行錯誤の日々ですよ。

東伊豆工場も案内していただきました。お忙しいところありがとうございました!

—— 試行錯誤の日々が、結果として多くの人の支えになっているということで…とても素晴らしいです。
今日は素敵なお話をたくさんお聞かせいただきありがとうございました。
今後の展開も楽しみにしております!

スタッフの雇用を守るために…と、コロナ禍真っ只中の時期に別事業で新天地で出店されるというのは、なかなか選択できないことと感じます。
それを、あたり前のことようにお話しする中田さん。
他で頑張れば、最終的には本社のある下田に還元できますから、それもあって頑張れるのです。
とも。
まさしく…優しくて、強くて、あたたかい!
そんな雰囲気の方でした。
この『
下田市 note ‐ ヒト・シゴト - 』では、様々な市内の事業者さんにそれぞれの想いを聞いているのですが、皆さんがそれぞれ地域に対して熱い想いを抱かれています。
私たちも、こうした皆さまとともにまちを元気にしていきたいです。

東伊豆工場から下田へ帰る道中、河津町から下田市に入ってすぐの尾ヶ崎ウイングから下田を臨む。このまちが多くの人の熱い想いで支えられていることを、あらためて実感するインタビューなりました。(こちらホントによい景色なので、伊豆半島の東海岸沿いを南下して下田に来られる時はぜひ、お立ち寄りください!)

高級食パン専門店 嵜本 静岡三島銀杏並木店
静岡県三島市幸原町1-1-10
営業時間 10:00〜18:00
☎️ 0559557742[電話予約10:00〜17:30]