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“コミュ力”で世界を広げる、仲間を増やす。下田で理想の海ライフを叶えたイベンター
イベントディレクター
戸野海雪さん
よく「地方は人間関係が濃い」といわれます。確かに街を歩けば知人にバッタリ会うし、公私の境界もあいまいになりがち。その感覚は、都会での生活に慣れた人にとっては新鮮に映るかもしれません。もしかしたら、それを煩わしいと思う人もいるかもしれません。
ですが、もしそんな地方ならではの“人とのふれ合い”を思いっきり楽しむことができたら、毎日の暮らしはもっと豊かになります。
今回は持ち前のコミュニケーション力でそれを実践している移住者をご紹介。下田市と東京を往復し、イベントの企画・運営を手がけている戸野海雪さんです。戸野さんのご自宅に伺い、仕事のことから趣味のことまで、いろいろなお話を聞きました。
“お試し期間なし”でいきなり下田に移住
——本日はご自宅にお招きいただき、ありがとうございます。キレイな建物ですが、こちらは新築ですか?
そうです。この家は2023年11月に完成して、その年の12月に夫と二人で下田に引っ越して来ました。
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——いきなり新築とは思い切りましたね! まずは賃貸の物件などで“お試し”してから、本格的に移住を決めるケースが多いのですが…
よく驚かれます。私は変化球が投げられない猪突猛進タイプでして、思い立ったら即行動しないと気が済まないんです。なので、あまりそういうセオリーみたいなものを調べずに押し進めちゃいました(笑)。
この家を建てた土地も、アポなしで地元の会社に飛び込んで紹介してもらって、いくつか見た候補の中から、その日のうちに購入を決めました。
たまたまその会社さんが建築もできるということで、家づくりもお願いしました。そのおかげで、移住を決めてから家を建てて引っ越しするまで早かったと思います。1年かかってないんじゃないかと。
子どもの頃から親しんだ海
——戸野さんは東京出身とお聞きしました。なぜ下田市に移住されたのですか?
下田はよく旅行では来ていましたが、特に何か縁があったわけではないです。そんな中で下田を選んだ最大の理由は、やっぱりきれいな海ですね。あとは仕事の都合で東京に行く機会も多いので、伊豆急下田駅から近い場所にしたかったんです。
以前は新宿駅から徒歩圏内のマンション住まいで、とても便利な立地でしたが、都会だからこそ逆にスーパーマーケットやホームセンターが近くになかったり…。なので、それらが近所にある今のほうが、毎日の暮らしはむしろ便利になっている気がします。そういう意味でも、下田市は豊かな自然と利便性のバランスが良いと思います。
——新宿駅徒歩圏から伊豆の南端…。振れ幅がすごいですね!
子どもの頃に家族で南伊豆町の妻良に毎年行っていたこともあって、伊豆は私にとってなじみがある場所でした。当時の妻良は海の目の前でバーベキューができて、それが良い思い出として残っています。
生まれも育ちも東京ですが、父が海洋調査の仕事をしていることも影響してか、海はかなり身近でした。素潜りとか魚貝の扱いとかの“海スキル”みたいなものは小さい頃から叩き込まれていました。ある種の英才教育ですね。
1歳で海の上に浮かんでパシャパシャ泳いでいたし、物心ついた時にはすでに、鼻をつままないで耳抜き(素潜りやダイビング時に必要な、鼓膜の内外の圧力を調節する方法)が自由にできていました。
それから大人になっても海はずっと好きで、下田に移住する前から日本全国の海に遊びに行っていました。
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——移住については、ご家族と相談されましたか?
夫も私もリモートワークができる環境だったし、夫は引っ越しが好きな人なので、移住の話が持ち上がったときも、悩んだり揉めたりはしなかったですね。むしろノリノリでした。
昔から夫婦で「いつか海の近くに住みたいね」とはよく話していたんですが、ある日、「海で思いっきり遊ぶなら、できるだけ早いうちに行っといた方が良くない?」と、どちらともなく言い出して、移住プロジェクトが唐突にスタートして、現在に至ります。
移住先を下田にするのも、すぐに決まりました。首都圏から近くて、こんなに海がきれいな場所はなかなか無いですから。今は夢だった「海が身近にある暮らし」を実現できて、とてもうれしいです。両親や友達も旅行気分で遊びに来てくれて「下田は良いところだね」と言ってくれます。
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リモートとリアルを駆使するイベンター
——戸野さんは現在、どんなお仕事をされているのですか?
フリーランスのイベントディレクターをやっています。これまでBtoB・BtoCを問わず幅広い種類のイベントに関わってきて、小さいものは数十名から、大きいものだと数千・数万人が参加するようなものまでありました。件数が一番多いのは入社式とか総会といった企業系のイベントです。
——ひとつのイベントを開催するにあたって、具体的にどういった業務を担当されているのですか?
私の場合はイベントの企画から始まって、本番当日の運営までを一貫して手がけています。クライアントや興行主の要望をヒアリングして、予算内でそれを実現できるプランを立てて、事前の準備や手配を進めて、そしてイベント当日を成功に導く。簡単にいうとそんな感じです。
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基本的に私ひとりで完結するものはなく、舞台演出や音響、映像制作、出演者などいろいろなパートナーの力を借りて作り上げていきます。私が全体をディレクションすることもありますし、スタッフとして一つの工程だけを請け負うこともあります。
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——ではお仕事で下田を離れる機会も多いですか?
「ほとんど下田、ときどき東京」といった感じです。提案資料作成や予算管理やリサーチ、進行台本の制作、スタッフのアサイン、オンライン会議などは下田の自宅でPCに向かっています。会場視察やクライアントとの対面での打ち合わせ、イベント本番などで主に東京に行きます。
転職15回以上、面接はもはや趣味の領域
——移動も多くて、とてもお忙しそうですね。
確かにイベントが集中する時期や、本番の直前はめちゃくちゃ忙しいです。でも、ヒマな時期はけっこうヒマです(笑)。
イベント業の他にも、地元企業様の事務仕事をリモートでお手伝いしたり、仕事を発注したい人と受託したい人とのマッチングなんかもやっています。独立する以前は会社勤めだったのですが、実は転職を15回以上もしていまして、そのおかげで(?)さまざまな業種・職種の人と知り合いになりましたので。
——かなりの転職回数ですね! これまでのキャリアはなかなかに波乱万丈そうです。
自分ではいちおう一貫しているつもりなんですが、まぁ、印象はあまり良くないですよね(笑)。
イベント制作会社で歌舞伎の巡業を手伝ったり、本場ニューヨークのゴスペル歌手のツアーをマネージメントしたり、PCスキルを上げるために音楽関係の事務をしたり、婚活パーティーの運営会社で総務をやったり、自分の中では将来的にイベント業の足しになるような仕事を中心に選んでいました。
もともと音楽とかイベントとかが好きで、大学生の時にはライブハウスで複数のバンドを集めたイベントを主催したこともあります。まったくの素人が「好き」の一念でやった割には300名ほど集客できました。当時出演してくれたバンドの中には、今ではメジャーになった人たちもいます。それがイベント業というものを意識した原体験だったと思います。
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仕事を探す際は、転職サイトや情報誌はまったく見ませんでした。面白そうな会社に連絡して直談判したり、知人の会社に誘われてお手伝いをしたり、というパターンがほとんどです。これだけ転職していると、もう採用面接はまったく緊張しません。ほとんど趣味みたいなもので、求職者なのにこっちから面接官を質問攻めにしてましたね。
釣りを始めたら意外な仲間が増えた
——下田に移住してからは、やっぱり海で遊ぶことが増えましたか?
夏はほぼ毎週どこかの海に繰り出しています。私はビーチよりも岩場派で、下田に移住した最初の夏は、“マイベスト岩場”を探すために賀茂地域のいろいろな海に行きました。この辺りだと爪木崎のいけんだ浜や、下田海浜ホテルの前の岩場が好きですね。あと昔から離島を巡るのも好きで、下田港からフェリーで行った式根島や神津島も最高でした。
海水浴場やシュノーケリングスポットはネットで調べてもたくさん出てきます。でも本当に良い穴場の情報は、地元の人に教えてもらうのが一番だと思います。下田で仲良くなった人や居酒屋で隣になった人たちに、よくおすすめの海を聞いています。
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今までは海で泳いだり潜ったりするのがメインでしたが、移住してからは魚釣りも始めました。もともと父と兄が釣り好きで、道具や知識はそこそこ持っていたと思います。
釣りは道の駅「開国下田みなと」の近辺でやることが多いです。下田の海に集う平均年齢70歳以上のレジェンドたちに、いつもいろいろと教えてもらっています。
——年齢問わず誰でも仲良くなれるのがすごいです。移住してすぐに、そのレジェンド層への“突破”を試みる人は希少な気がします(笑)
近くで釣りしている人に「何が釣れますか?」「針や糸の仕掛けはどういうのが良いですか?」と聞いていたら、自然に仲良くなってました。どうやら私は知らない人に話しかけるのが得意(?)みたいで、他の人なら躊躇するような場面でも、私は誰彼かまわず突撃して、人によく驚かれますね。
釣りを始めた頃に偶然話しかけたのが、下田の海を知り尽くした名人で、そこから輪がどんどん広がっていきました。ずっと地元で釣りしている生き証人みたいな先輩もいるし、毎週のように別の地域から下田に釣行に来る人もいます。いきなり絡んできたワケわからない人間を皆さんが優しく受け入れてくれて、今では世間話をしながら楽しくやらせてもらっています。
地域の“釣り仲間”たちは一大コミュニティーみたいになっていて、いつもの釣り場に行くと、常時10人以上は誰かメンバーがいる、という感じです。
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先輩たちがたくさん釣れたときは、魚のおすそ分けをもらうこともあって、それだけで夕食のメインディッシュになって助かってます。逆に私が爆釣だったときは、近所の方にあげたりもしています。お返しに家庭菜園で採れた野菜をいただいたりと、物々交換というか、貨幣経済から一歩外に出たコミュニケーションも私にとっては新鮮です。
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——下田での暮らしが充実しているようで何よりです。最後に、これから下田でやりたいこと、実現したいことがあれば教えてください。
伊豆や下田を盛り上げたいという想いがあって、私ができるとしたら、やっぱりイベントかなと。個人的にはきれいな海、おいしい魚をもっと多くの人に知ってほしいので、観光客や周辺地域の人をターゲットとした、「海」がキーワードのイベントを開催したいです。こっちでできた仲間や地域の皆さんと協力して実現したいですね。
オープンな気風にあふれる開国のまち・下田では、地元の人や移住者がさまざまな活動をして、地域には多様なコミュニティーが生まれています。相手を問わずお互いに助け合う、そんな相互扶助の精神も古くから根付いています。
戸野さんのようにやりたいことを自由に追い求め、趣味や目的が同じ仲間を見つければ、もっと下田ライフは豊かで楽しくなるでしょう。下田への移住や観光を検討している皆さんも、きっと素敵な仲間に出会えるはずですよ。