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空き家バンクで見つけた物件は小説「伊豆の踊子」に登場する宿!「トントントン」の開業エピソード。(甲州屋 山口久恵さん)

日本人初のノーベル賞作家 川端康成の代表作に、伊豆を舞台にした小説「伊豆の踊子」があります。
今年(2023年)は、川端康成の中国での著作権が切れたことからその作品の出版ラッシュとなり「川端康成ブーム」となっている、そんなニュースを耳にしたことがありました。
文化を通じて国民同士の相互理解が進んだらいいなあ…くらいに思っていたこのニュース、特にわがまち「下田」と関係あるとは思っていなかったのですが…、実はありました!
出版ラッシュによりあらためて注目されている代表作「伊豆の踊子」ゆかりの地を巡る人たちが、下田にも訪れはじめているとのこと。
どこの何が賑わいにつながるのか?わからないものです。
下田の「伊豆の踊り子」ゆかりの地といえば、こんな印象的な表現で登場する宿があります。

― 甲州屋という木賃宿は下田の北口をはいるとすぐだった。私は芸人たちのあとから屋根裏のような二階へ通った。天井がなく、街道に向かった窓ぎわにすわると、屋根裏が頭につかえるのだった。―

(川端康成 伊豆の踊子 より)

小説に出てくる宿「甲州屋」は実在していて、その建物が昭和30年に焼失後も建て替えて営業していましたが、しばらくは担い手がいなかったそうです。
2021年、下田芸者としても活動されていた山口久恵さんにより、「ゲストハウス 甲州屋」として再開されました。
そして、今、中国での「川端康成ブーム」もあって「伊豆の踊子の宿」として注目を集めています。
今回は、山口さんに開業のいきさつや、下田への思いなどを伺いました。

お忙しいところ、ありがとうございます!

神奈川生まれということですが、下田に移住するキッカケは何だったのでしょうか?

2013年、夫となる晃さんと結婚する前ですが、出会うキッカケとなった横浜のアメリカンバーの仲間たちと皆でサーフトリップで下田に来たんですよね。
その時、まだ付き合ってもなかったんですけど、
「下田いいよね~ペンションとかやったら楽しそうだよね~」
そんなことを話してました。
その後、意気投合して付き合うことになり、一年後に彼が先に下田に移住して、私もちょうど横浜の仕事をやめたタイミングで来た時、泊った宿の人と話していて、
「ウチで仕事する?」
そんな流れになって、是非!と働くことになったのです。
そして、トントントンと話がすすみ移住してきました!
「あれ?下田に呼ばれてる!?」という感じです。
まわりを見ても下田に移住してきてる人って、結構「呼ばれてるな」って人が多い気がします。
住みはじめたら「下田サイコー!」ってなって、気付いたら…結婚して、子どもを授かり、そして、ここで宿をはじめてました!(笑)

現在子育て真っ只中!宿にも元気な声が響き渡っていました。

さすがサーフトリップで下田に来られただけあって、波にのっての移住!という感じですね。
宿の開業の前には、下田芸者として活動されていたと聞きました。やはりそうした和の文化への憧れがあったのですか?

よくそう言われるのですが、実は、仕事を探していた時に偶然ハローワークで見つけたんですよ!
「着付けと踊りを教えます」って書いてあって、え、なんか面白そう…って感じで応募して、受かっちゃって(笑)芸者はじめました。
着物もそれから着れるようになったんですよ。
今は子育てと宿業が忙しくて、お座敷には行けてませんが、月に何度か裏方としてお手伝いさせてもらっています。

芸者として活動されていた頃の久恵さん(右)。またその踊りを披露していただきたいです!

下田は江戸時代より東西を結ぶ港として栄えて来たことから芸者文化がはじまり、現在もその伝統は引き継がれています。

この甲州屋さんは川端康成の小説「伊豆の踊子」にも登場するような由緒正しき宿ですよね。ここで宿をはじめたいと狙っていたのですか?

それも全然違ってて!(笑)
宿をやりたいとは考えていたのですが、実はアメリカンな感じのペンションをイメージしていました。
私は7年ほどアメリカに住んでいた事がありますし、と夫と出会ったのアメリカンバーでしたし、移住してきてしばらくは夫はハンバーガースタンドをやっていたこともあったり、私が宿の仕事で関わったのもペンションでしたし。

ハンバーガースタンドをやられていた頃の久恵さんと晃さん。確かに…アメリカン!

で、そんなイメージに合ういい物件が見つかって!
そこでの開業を考えていたのですが、ローンがおりなくて…ああ、ダメか…って意気消沈してる時に、偶然、空き家バンクの方にお会いして
「しばらく開いてる物件あるよ」
と紹介されたのが、この物件でした。
イメージと違う「和」の物件だったのですが、古くて趣きのある佇まいを気に入ってしまい、芸者の経験も活かせそうだし…それもいいか!とトントンと話が進んでいきました。
うまくいく時ってこんな感じでトントントンと話が進むので、その流れに乗った感じです。

トントントンと移住して開業して…まさに導かれてる感じですね!!!
空き家バンクの物件で宿泊業をはじめるというと、大規模なリフォームが必要で多くの資金が必要なイメージがありますが、どんな工事をされたのですか?

それが凄い状態がよくって!一階の一部分をちょっと変えたくらいです。
その一階部分のリフォームも自分たちで出来るところはやって、なるべくお金をかけずに開業しました。

出来るところはDIYでリノベーションした「コモンスペース」。もともとは物置だったそうです。

ここは自宅も兼ねているので暮らすうえでは大変なところはありますが、前に夫が飲食店をやっていた時には、別に家を借りていてダブル家賃が大変だったので、経済的には助かってます。

宿泊部屋がある2階の廊下。築60年だそうですが…確かに状態が良く、そして趣きのある佇まい!
「旅の宿」の雰囲気がたまりません。

え、賃貸なんですね!?物件を購入されたのかと思っていました。こうしたやり方であれば開業のハードルは低く、多くの方に開業のチャンスがあると感じます。では、宿の運営について教えていただけますか?集客方法や客層はどんな感じでしょうか?

メインはAirbnb(通称:エアビー)からのお客さんですね。
エアビーが良いのはこちらもお客さんの評価をみれるとこで、自宅も兼ねているので、それはすごく助かります。
ウチ、すごく評価いいんですよ!
古くて小さな建物ですが、あらかじめどんな宿なのかをきちんと説明させてもらっているからかと思います。
お互いの理解ってとても大切なんですよね。
他には、リピーターさんがホームページから、またはラインやSNS経由で直接予約してくださったり、移住希望者が下田に滞在する際に滞在費を助成する制度があるのですが、その宿としても登録しているので、移住希望者もよくいらっしゃいます。
自分たちも移住者ですので、役所の方や業者さんではお伝えしきれないリアルな「下田移住暮らし情報」をお知らせしています。


下田の主要な施設や飲食店が多くあるマイマイ通り。甲州屋は通りから入ってすぐの立地で、滞在中の利便性もよさそうです。

そして、意外な客層が…海外の、特に中国・台湾の若い人で「川端康成の伊豆の踊り子を読んできました!」という方が多くて…こうしたお客さまはまったく想定していなかったので嬉しい驚きでした。
踊り子たちがたどった道のりを巡る中で、ウチも見つけてくれているようです。
最近では、そうして訪ねてくれた方からさらに広がって、聖地巡礼的に来てくれる方も多くなってきました。

大迫力の木彫りの看板!元々あったそうで、宿のシンボルともいえる存在感です。

え?中国や台湾の若い方が川端康成を読んで、下田に来られているのですか?それは…意外です。下田市としても、その客層をちゃんとフォローしていく必要がありそうですね。情報ありがとうございます!(笑)では、これからどんな宿にしていきたいのでしょうか?

旅をされてるお客さんが寛がれてるのを見ると、本当にうれしくなっちゃうんですよね。
旅ってやっぱり疲れるじゃないですか?大きな立派なホテルとかももちろんいいんですけど、そんな旅の途中で立ち寄る…どこかホッとできるような、「親戚の家」みたいな宿にしていきたいと思っています。
最近は、リピーターさんも増えてきて、皆さんがまさにそんな感じで使ってくれはじめていて、凄くうれしいです。
あとは、宿泊以外の話ですが、コモンスペースでワークショップや展示会をする交流の場づくりをしていきたいと考えています。
そんな思いもあって、今年度からはじまった市の取り組み『まちじゅう図書館』に参加させてもらいました。

『まちじゅう図書館』は、より多くの市民や下田を訪れた人が手軽に読書を楽しむことができるようにと、市内の飲食店や宿泊施設で下田市立図書館の蔵書を手に取ることが出来るスペースを設けた市の事業です。

https://lib.city.shimoda.shizuoka.jp/toshow/html/matiju.html
コモンスペースの一角を「下田まちじゅう図書館」としています。
郷土の歴史をきっかけとした交流の場となったらという思いで事業に参加してくださいました。

一応、まちの人も手に取ることが出来る仕組みではあるのですが、現状は宿泊された方が読んでいる感じです。
あ、「伊豆の踊子」ももちろんおいてあります!
作中に登場する宿での読書体験ってなかなか出来ないでしょうから、滞在した折には是非手に取っていただきたいです。

確かにそれは貴重な体験ですね~。
では、そんな踊り子たちも旅をしていたまち「下田」についてですが、移住して10年近く、どんな住み心地でしょうか?

もともとサーフトリップで来てたくらいなので海が好きだったのですが、最近は忙しくて、海は近いのに遠い…状態です(笑)。でも、まちの規模感がちょうど良くてとても暮らしやすいと思います。

近くて遠い海!そうそう、住んでると意外と行かなくなるんですよね…。
でも、そこにあるというだけでも、ホッとできますし、ありがたい存在です。

移住前が横浜だったので、人が多くてまちも大きくて、情報量多すぎ!って感じでしたが、下田はちょっと行くと誰かに会ったりして。
自分たちにとってはそれが心地良くて、合ってるんですよね。
そして、まわりの人がみんないい人ばかりで、安心して暮らせてます。
芸者のスキルを仕事しながら身につけたり、ハンバーガーも甲州屋もですが、事業をはじめる時にもたくさんの方が協力してくださいました。
なので、特に、私たちのように事業をやってみたい!って人には凄く可能性を感じるまちですね。
最近は、そんな人たち、まちでお店をはじめる人が増えてきてすごく嬉しくて。
よくお客さんに、朝ごはんスポットを聞かれるのですが、朝食をやってるお店が少ないので、飲食店に挑戦してみたい人は…メッチャ応援するので、是非!

甲州屋さんでは食事の提供はしていませんが、近隣に飲食店が多くあるので食事に困ることはなさそう。下駄をカランコロンと鳴らしながらまち歩きを楽しむにはもってこいの立地です。

でも、そんな下田ですが課題がないとは言えないですよね。
多くの観光に携わる人が口をそろえて言ってますが、繁忙期の夏以外の閑散期…どうにかしたい!
夏以外の海、とってもいいのに秋になった途端、パッタリ人がいなくなってしまいます。
それぞれの季節で見どころもあるし、それぞれの季節で旬の食材もあるし。
もっとそれぞれの季節の下田の魅力を知ってもらって、来てもらいたいです。
いつの季節でも楽しめる下田。
是非、夏以外にもお越しください!(笑)

下田といえば…金目鯛!のイメージが強いと思いますが、伊勢エビ漁も盛んです。
その旬は秋から冬にかけて!まさに下田の閑散期…。是非、食べにいらしてください~!

確かに、そこもっとアピールしていかなきゃですね。ありがとうございました!
今回、山口さんにお話しを伺い、あらためて「下田ってなんて可能性に溢れているのだろうか!」と感じてしまいました。
お話しされていたように閑散期の問題は大きく立ちはだかっています。でも、「それぞれの季節の魅力」はあるわけで、そこをアピールしていけば伸びしろはある…つまりはそれも可能性!
こうした志の高い事業者さんがまちにはたくさんいらっしゃって、どの季節に来ても「最高の下田体験」を提供してくださいます。
…ということで、しつこいようですが、是非、夏以外の下田にも足をお運びください!
 

甲州屋さんで撮影した写真を見返していると…いつかどこかで泊った部屋を思い出し、ついつい旅の思い出に浸ってしまいます。旅って、いいですね。

ゲストハウス甲州屋
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