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兄弟でUターンし、家業を継ぐ。社会人として得た知見を地元の事業で活かす。ところてん「西林商店」5代目 西川裕大さん

下田の特産品として海藻の「天草(てんぐさ)」があります。
天草…って何に使われるのか?
ご存じの方も多いかと思いますが、あらためて説明すると…

海女さん、漁師さんが素潜りで天草漁をしています。( 写真提供:津留崎 徹花 )
採った天草を天日で乾燥させる。

乾かした天草を煮溶かして型に入れて冷やす…と「ところてん」になり、ところてんを凍らせて乾燥させると和菓子には欠かせない「寒天」になります。
伊豆半島の天草は質・量ともに日本一と言われていて、なかでも下田須崎産天草は特に高値で取引されているのです。
下田のまちなかにある老舗『西林商店』は、そんな須崎産の天草にこだわり、「ところてん」をつくり続けています。

市内のスーパーや土産物屋ではお馴染みの西林商店の「ところてん」。
写真を見てるだけで…食欲そそります。

創業はなんと明治。
そんな『西林商店』に、進学を機に上京し、その後は会社員をしていた五代目の西川 裕大さんが、2016年に後を継ぐためにUターンで下田に戻ってきました。
続いて、2021年には弟の大貴さんもUターンで下田に戻られて、今は四代目の雅一郎さんと、裕大さん大貴さんとで協力し合いながら西林商店を営んでいます。
また、裕大さんも大貴さんも下田に戻ってきてから、お子さまを授かりました。
後継者不足に悩まされることが多い下田の商店…いや全国各地の商店ですが、ここ下田にはこんな賑やかに事業を継承されているケースもあるのだと嬉しくなってしまいます。

左が裕大さんご家族。真ん中が4代目雅一郎さん、右が大貴さんご家族。
賑やか!

今回は、そんな『西林商店』さんにお邪魔して、裕大さんにUターンで戻ってきた下田への想いや「ところてん」へのこだわりなどなどうかがってきました。

今日はお忙しいところありがとうございます。
西林商店さんの「ところてん」の大ファンで、よくいただいてます!
こうして、お話をうかがえるのをとても楽しみにしておりました。
では、まずは生まれ育ち、Uターンで下田に戻ってくる経緯などをお聞かせください。

下田のまちで育ち、高校まで下田で、大学進学をキッカケに東京へ。下田を離れました。
実は下田ではかなり英語の成績がよくて、英語を使うような国際的な職業につきたいと思っていたのですが…、東京の大学のレベルではそこまでじゃなくて…笑。
結局、一般的な企業に就職し…いきなり縁もゆかりもない広島で働くことになりました。
一度働いてみてよくわかったのですが、企業で一生はたらく人生はないな…と思っていて。
もちろん企業で働くことがあっている人はいるのでしょうが、自分の場合は、という意味です。
そんな時に、実家の西林商店の従業員がやめる話が出て…戻るのもありかな?と考えはじめました。

下田にもこんな素敵な若手がいるのです!

戻ることに関して、お父さまはどんなご意見だったのですか?

父親は、「戻ってこい」とは一度も言わなくて、「やりたいなら戻ってこい」というスタンスでした。
安定を求めるなら会社員だぞ…ともよく言われていて、そんなこともあって結構悩んだのですが、仕事もよく手伝っててやりがいも感じられたし、とにかく下田が好きだったので…「戻るのありかな?」の気持ちがどんどん広がっていって…結果、戻ってきました!
そして、2016年から正式に『西林商店』で仕事をはじめたのです。
その後、2021年に弟の大貴も東京から戻ってきて、今は父と弟と僕とでところてんを製造しています。

作業では、さすが兄弟!息ピッタリ!!

「とにかく下田が好きだった」から戻ってきた…というのは、地元としては、この上なく誇らしいです。
でも、それだけでなく、お父さまが「戻ってこい」とは言わずとも、戻ってこれる場を、戻ってきたいと思える場を守りつづけていたからこそ、お二人ともが戻ってこられたのでしょう。
とても素晴らしいお話です。
では、西林商店についてうかがってよいでしょうか?
祐大さんが五代目ということですが…当初から「ところてん」をつくられていたのですか?

実は、トコロテンは西林の歴史からすると割と最近はじめたのです。
当初は八百屋でした。
その後、二代目がこんにゃくやしらたきの製造をはじめます。
三代目、つまり僕の祖父がアイスキャンディーを売って、すごい繁盛したそうです。
その頃に三代目と四代目とで、つまり僕の祖父と父とでトコロテンの製造販売をはじめました。
4、50年前のことです。
実は、当時の下田ではところてんを商売にするという発想がありませんでした。
というのも、各家庭であたり前につくるものだったからです。
天草を煮溶かして、冷やして、型に入れて、突いて、各家庭でそれぞれの味付けをして…。
それを商品にしたのですから、こんな食感は違う!この味は違う!こうしろああしろ!と、アチコチから言われたと聞いています。
皆さん、それぞれの家庭のつくり方にこだわりがあったのでしょうね。
さすがに、あまりにアチコチから言われるので、聞ききれず、自分で決めたやり方で商品をつくったようです。

酢醤油などのしょっぱい系、あんこやきなこなどの甘い系、どちらがお好みでしょうか?
ワタシはどっちも好きです…。(写真は『黒蜜&粒あん』)

ところてんを商品化する発想がなかった…、今から考えると意外ですね。
水やお茶のペットボトルなんかも、当初そう言われていましたが、今では販売されている飲料でも大きなシェアを占めています。
既成概念にとらわれていたら商売はできないと感じるエピソードです。
そんなところてんの材料となる「天草」についてですが、西林商店さんでは下田の須崎産にこだわっていると聞いたのですが、他の産地のは使われていないのですか?また、須崎産にこだわる理由は何でしょうか?

100%須崎産です!
理由は、品質がよいから…以上です!!笑
もちろん、他の産地のも試したことはあります。
たまにいいのがとれる…という産地もなくはないのですが、高品質なものが安定してとれるのは、やっぱり須崎産なんですよね。

美しい須崎の海は、観光地でもありますが生産地という側面もあるのです。
地域で協力して生産に取り組んでいるのがよくわかります。( 写真提供:津留崎 徹花 )

地元だから…ということも少なからずあるのかな?と思っていたのですが、品質で地元産を選ぶ、というのは地域としても誇らしいことですね。
では、今年で戻ってこられて9年目になると思うのですが、どんなことに取り組んでこられたのでしょうか?

基本的には、ひたすら「ところてん」づくりの作業です。
最近、やっとすべての業務をこなせるようになったくらいで、覚えることもたくさんありました。
でも、サラリーマン時代の経験を活かして、数字をみたり、企画や営業をしたり、ということもしています。
広島時代は、小さな事業所で働いていたので、どうやって事業所を成り立たせるか?という舵取りを任されていました。
父も祖父も、外で働いた経験がなく、自分のそんな経験が想像以上に活きています。
当時は、ハードに働いていてきつかったのですが、今では経験しておいてよかったと思うようになりました。

その道一筋…の良さもありますが、家族それぞれの違う視点が入る良さもまたありそうです。
企画といいますと、どんなことをされているのでしょうか?

新しい味付け、新たな食べ方の提案などをしています。
どうしてもところてんって寒い時期にはあまり食べてもらえないのです。
なので、寒い時期に食べたくなるようなフレーバーを開発したり、温めて食べる『ホッところてん』という食べ方を提案しています。

確かに、ところてんというと夏のものという概念がありますね。
ぜひぜひ、寒い時期向けの商品開発、がんばってください!

様々なフレーバーがあって…迷うのも楽しいですね。(全ラインナップではないです)

あと、家族それぞれって意味では、これからはInstagramでの発信にも力を入れていこうと思っていて、それは弟に任せることにしています。
弟はアパレル業界での経験もあるので、その経験も活かせそうだなと。

若い世代のセンス、アイデアと4代目の経験…ご家族総出で西林商店を盛り上げていて、素晴らしいです。
では、これからの展開などお聞かせいただけますでしょうか。

先ほどもお話しした、寒い時期には「ところてん」の売り上げがたたないという問題があります。
もちろん、いろいろと提案はしているのですが、「ところてん」を「ところてん」としてだけ売るのには、少なからず限界を感じていて。
家族も増えていくなかで、違う展開を考えています。
具体的に今、動いているのはテングサエキスを使った商品開発です。
例えば…ハンドクリームとかリップクリームとか。
海藻エキスはさまざまな効果があることからすでに多くの商品がありますが、下田の須崎産天草!と材料の品質にこだわったものをつくっていきたいと思っています。
今後の展開、楽しみにしていてください!

下田産海藻のハンドクリーム…お土産の需要もありそうですし、楽しみです!
「夏の繁忙期、それ以外の閑散期の格差」は下田の観光業の課題ですが、どんな展開となるのか?若いふたりのアイデアと行動力に期待しています!
今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。
…と、インタビューを終えた後に、作業場を見学させていただきました。
あの「ところてん」が我々の食卓に並ぶまでには、こんな苦労があったのか…と、感動してしまいました。
その製造工程を順に紹介させていただきます!

①仕入れた状態の、須崎産の天草です。
天日で干して水でさらして、を何度も繰り返し、異物を取り除き…。
ここまででもかなりの手間がかかっています。
これがどのような工程で「ところてん」になっていくのか?

②まず、専用の釜で6時間かけて煮溶かします。(夏場は、工場の温度がすごいことになるそうです…)
こちらを圧力釜で短時間で終わらせてしまう方法もあるそうですが、西林商店さんは昔ながらの製法にこだわり、手間と時間をかけています。
この作業は気温によって微調整が必要な難しい工程。
今はまだ四代目がその役を担っています。

③煮溶かした抽出液を濾しながら型に流し込みます。

④翌日、固まった「ところてん」を型から出す。
かなりの重量で、手元は冷たく…。
この作業はなかなかの重労働です。

⑤豆腐2丁分ほどの大きさにカットする。

さすが兄弟!息がピッタリ合ってます。
刃の間隔を変えることでさまざまな大きさのところてんが出来ていきます。

⑥ここからは機械の登場!
棒状やサイコロ型など様々な形状にカットして…

⑦容器に詰めていきます。
昔は手作業だったそうですが、これを手作業で行うのは…なかなか大変そうです。

⑧内蓋がされて、いよいよ商品の形が見えてきました。

⑨タレをいれて、外蓋をして…

⑩ラベルを貼って…完成です!
こうして製造工程がわかると、よりおいしく、そして感謝していただけます。

ということで、製造工程を紹介させてもらいました。
写真を見ていると、磯の香りを思い出し…ところてんが食べたくなってしまいます。
さてさて…次は、何味にしようかな?選ぶ楽しさがあるのもいいですね。
本当に、お忙しいところありがとうございました!

下田だけではなく、多くの地方の商店で問題となっている『後継者問題』。
時代の流れから致し方ない点もあるとは感じます。
でも、こんな素敵なカタチで次の世代が事業を継ぐケースもあるのか…とご家族の写真を撮影させてもらいながら、感心…いや感動してしまいました。
これからも「とにかく下田が好きだった…」と思ってもらえるまちづくりをしていきたい!そう思える取材となりました。
今後の西林商店さんの展開が楽しみです!




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