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伊豆素材のリキュールを世界に発信したい。海と豊富な果実に魅せられ、白浜に蒸留所をつくった若者の大きな挑戦

伊豆下田 白浜蒸留所 白井健太さん


クラフトビール、クラフトジン、クラフトウイスキー……。いま、全国各地でその土地の風土や作り手の個性を反映させた小規模の酒造りが盛んです。クラフトブームともいえるなか、2023年10月、下田の白浜に小さな蒸留所が誕生しました。「伊豆下田白浜蒸留所(以下、白浜蒸留所」。地元素材を使った「MADE IN SHIMODA」のリキュールをコンセプトに2024年4月、第一弾となる伊豆産ダイダイを使った「ブルーキュラソー」が完成。仕込んだ637本はほぼ1カ月で完売。その後も、レモンやニューサマーオレンジ、イチゴなど地元産の素材を生かしたリキュールを次々と生み出し、好評を得ています。

蒸留所を運営する「Fame's(フェイムズ)」は東京でバーも経営するスタートアップ企業です。同社の取締役で、東京から下田に移住し、本格的にリキュールづくりに取り組んでいる白井健太さんにお話しをうかがいました。

訪ねたのは、今年8月、下田駅からほど近いマイマイ通りにオープンした直営バー「白浜蒸留所リキュールスタンド」。白井さんが自ら店に立ち、自社製品のお酒やカクテルのほか、昼のカフェ営業も不定期で行っています。
(注)営業日についてはInstagramをご確認ください。

白浜蒸留所リキュールスタンドにてお酒をつくる白井さん


僕がリキュールメーカーになるまで


——ご出身は大分県だそうですね。いつからお酒造りに興味を持つようになったんですか?

大学を中退後、いくつかの職を経てITベンチャーに就職し、プログラマーとして働いていました。当時、ふらっと入ったバーでクラフトジンに出会い、自分でお酒をつくってみたいと思ったのが最初のきっかけです。もともとものづくりが好きで、面白いと思うと自分でつくってみたくなる性分なんです。
リキュール(注)を製造しようと思ったのは、クラフトジンブームが傾向として少し落ち着きを見せ始めていたように感じていたことと、地域のものをより素直な形でお酒にして活かすにはリキュールのほうが向いていると思ったからです。

注)リキュールとは:蒸留酒(スピリッツ、ブランデー、ウイスキー、ラムなど)に、果実や香草、薬草などの香りを抽出させ、砂糖やシロップなどの甘みを加えたお酒。香りの成分によって、「果実系」「香草・薬草系」などに分類される。

——ほかの土地を検討されることなく、下田一択だったんですね。なぜ下田がいいと思われたんですか?

2021年3月に、そのお客さまの案内で初めて下田を訪れたんですが、ものすごいポテンシャルを秘めた土地に感じました。自分が知っている海のなかでも抜群の透明度。海と山に囲まれていて自然が豊かですし、なによりリキュールづくりに欠かせない農作物がたくさんありそうだった。
ただコロナ禍で外出が制限されていた時期だったので、製造所のレイアウトや工事の計画を進めるなど活動は必要最低限に留めました。下田を中心に、南伊豆エリアにはどんな作物があるか、リキュールに使えそうなものはないか調べたり、準備期間にあてました。

多彩な柑橘が栽培されている下田。海からのミネラルがおいしくするといわれている


酒造免許の壁とクラウドファンディング


――移住はどのタイミングで?

2022年8月に下田に移住しました。製造所を開くための改修工事にある程度目処がたち、工場内の設備を整える段階まできていました。お酒を造って、そのお酒を販売するためには、「酒類製造免許(酒造免許)」が必要になるのですが、免許申請にはお酒を造るための設備や備品がちゃんと揃っていることが前提です。免許を取ってから設備を買おう、っていうのができないんです。そのため、先行で大きな資金が必要になります。

——日本で新規にお酒造りに参入するのはいろいろな面で厳しいと聞いたことがあります。どういったハードルがあって、どうやって乗り越えたんですか?

そうなんですよ。酒造免許を取るのはほんと大変だった……。
酒税法には「法定製造数量」というのがあって、これは1年間に製造するお酒の見込み量のことで、定めた最低製造数量を満たす設備や、原材料を仕入れるための資金、生産計画などを求められます。取引先をいくつか確保しておくことも重要です。

なにもかも初めてで大変でしたが、なんとかこれらのハードルをクリアして酒造免許の申請をしました。審査の間は、地元の方々の集まりに参加したり、自分たちの事業について説明したり、地域行事に参加したりするなかで、理解してくださる方、応援してくれる方が少しずつ増えて、心強かったですね。何かあったら相談しろとか、力になってくれそうな人を紹介してくれたり、リキュールの材料になりそうなものをご提案いただいたり。

蒸留設備を整備するための資金は、一部をクラウドファンディングで調達しました。2023年1月で目標金額100万円に対し237万円を集めることができました。
クラファンにはもう一度チャレンジしています。同年の10月にリキュール製造免許を無事に取得し、第一弾のお酒(下田ダイダイを使ったブルーキュラソー)を製造するための原料購入費を調達するためでした(目標50万円に対し185万円達成)。

僕らは開業資金も運転資金もあまりない状態でスタートしたので、クラファンで応援してくださった方々には本当に感謝しています。

第一弾は下田の海を表現したブルーキュラソー


——今年(2024年)4月に第一弾の「シラハマクラシック・ブルーキュラソー」が完成したときは、かなりのインパクトがありました。私自身も下田でリキュール製造ってどんなお酒ができるのだろうと楽しみにしていたので、鮮やかなブルーに地元の柑橘が使われていると知り、素晴らしい目のつけどころ!と興奮しました。記念すべき第一弾にブルーキュラソーを選ばれたのはどうしてですか?

鮮やかなブルーが印象的な「シラハマクラシック・ブルーキュラソー」

ありがとうございます。注目していただいていて嬉しいです。
ブルーキュラソーは、ビターオレンジの果皮をスピリッツに漬け込んだものを蒸留し、青く色づけしたお酒です。リキュールのなかでも、ブルーキュラソーはあくまで色づけを目的として使用されることが多く、味わいについてはあまり求められてきませんでした。そのため、新規のリキュールメーカーが最初にリリースするお酒として適しているかというと、そうではないかもしれない。
しかし、下田・白浜がもつ海のイメージから味わいを追求したブルーキュラソーをつくるというアイデアは、逆に白浜蒸留所を印象づけることに繋がると考え、挑戦してみようと思いました。

ブルーキュラソーの原料であるビターオレンジ(日本名のダイダイ)は、全国的に見ても伊豆半島で多く生産されているため、生産の条件としても完璧だったということも、第一弾としてブルーキュラソーを選択した理由です。

伊豆のあちこちの山中で実るダイダイ


――フードロスの問題も意識されているとうかがいました。

そうですね。ダイダイに限らずなんですが、使われずに廃棄されてしまう食品をなんとかしたいとの思いがあります。ダイダイの需要は2回あって、10月ごろから収穫が始まる青いうちはポン酢に。年末になるとお正月の正月飾りに使われます。でも、その時期が終わると、まったく需要がなくなってしまう。ダイダイは酸味が強くて生食向きではないこともあって、シーズンが終わると大量に破棄されてしまうんです。農協さんからお話を伺うなかでそのような課題があることを知り、これは活用すべきだと思いました。

味や香りは問題ないのに規格外となってしまったものや、買い手がつかなかった農産物などを白浜蒸留所で活用し、全国のバーでも使えるような本格的なリキュールに加工する——。

そうすることで農産物の味を通年で楽しむことができるようになったり、伊豆や下田に興味を持ってもらう機会としても機能するようになります。廃棄を減らすことで生産者さんの収入や、環境負荷の軽減にもつなげることができますし、もちろん私たちとしてもよい素材を低価格で入手できるというメリットもあります。

まだまだ手探りですが、自分たちの利益だけでなく伊豆という地域や下田という土地全体に利益を生み出せるような活動として取り組んでいきたいと考えています。

——三方よしの関係ですね。それが持続可能な農業のサポートにつながっているのも素晴らしい。ブルーキュラソーは発売から1カ月ちょっとで完売したそうですね。すでに第二弾もいくつか完成されていますが、それらの新作についても教えていただけますか。

ブルーキュラソーは、初回ロットで637本を製造することができたのですが、クラウドファンディングの返礼品と、黒船祭(※)出店などの一般販売でありがたいことにすぐに完売しました。今年はもう少し量を増やして仕込めたらと思っています。

(※)黒船の来航と開国を記念した下田最大の祭典。海上花火大会、米海軍、海上自衛隊の音楽隊が出演するパレードやコンサートなど、国際色豊かなイベントが行われる。また黒船祭に併せ、市内目抜き通りで各種露店の出店やイベントを行う開国市が開催される。



第2弾は7月に販売を開始した、松崎産のワサビの葉を使った「リーフオブワサビ」と、静岡の菊川市産の茶葉を使った「ジャパニーズティー」です。

白浜蒸留所がこれまでにリリースした主なリキュールたち


「ワサビ」と「茶葉」は、静岡県でリキュール製造を行う以上、どちらもチャレンジしてみたい素材でした。
ワサビは通常、根の部分をすり下ろしてお刺身やお蕎麦の薬味として味わったり、茎の部分をわさび漬けなどの加工食品として食べることが主ですが、葉の部分は収穫時に捨てられてしまっています。
一部天ぷらや和食の飾りつけなどで使われることもあるようですが、基本的には未利用となっている素材。伊豆のワサビという最高なブランドを、未利用の部位を活用することで製品化できて、新しい価値として提案できるって面白くないですか?
たまたま知り合ったワサビ農家のお手伝いをされている方とそういう話になって、作業の負担にならないよう収穫作業の片手間に収穫用コンテナに葉を集めてもらい、お預かりした葉を一枚一枚手洗いして砂利などを取り除いて下ごしらえをしました。地道な作業でしたが、面白いリキュールがつくれそうだと確信していたので、コツコツと計画を進め製造しました。

「ジャパニーズティー」は、菊川市のお茶農家「美緑園」さんとのご縁から生まれたリキュールです。以前からゆるキャラ関連で出店されたりしていて、下田とも関係が深かったのですが、開国市実行委員会から紹介していただき白浜蒸留所のリキュールに興味を持ってくださいました。事前にブルーキュラソーを購入いただいた際に私が実際に菊川までお邪魔したりと、あらかじめ打ち合わせをさせていただいて、今年の黒船祭に生の茶葉を車に積んで白浜まで届けてくださったんです。

茶葉は放っておくと発酵してしまうので、受け取ってそのまま即日中に原料用アルコールに漬け込むというスピードが求められましたが、うまく蒸留に成功しました。おかげで茶葉を蒸して揉む前の、茶摘みのときのフレッシュな香りをそのままお酒にすることができたと自負しています。加水には同じやぶきたの新茶を濃く水出しして使用しているので、砂糖を使用していないながらも新茶葉本来の甘味を感じられる仕上がりになりました。


伊豆素材との出会いは、地元の交流から


——さらに、新作が次々と誕生していますね。レモン、ニューサマーオレンジ、イチゴ、幻のみかんといわれる九年母(くねんぼ)、南伊豆のおく農園さんだけでつくられている南国フルーツのババコウ……。どれも下田や南伊豆、河津と伊豆産のものばかりです。素材を提供してくださる生産者さんはどうやって見つけたのですか?

ご紹介いただくケースが多いのですが、直接お問い合わせをいただいたり偶然知り合ったりするケースもありますね。
地域のイベントや、道の駅湯の花さん主催のイベントに参加するなかで出会ったり、そこでご紹介いただくことも少なくありません。みなさん、僕らの活動を応援してくださっているのが伝わってきて、本当に心強いです。

黒船祭に出店
白浜蒸留所のある白浜地区のお祭りに参加。地元の先輩たちといっしょに神輿を担ぎました


いま(取材は10月中旬)仕込んでいるヤマモモも、湯の花さんの「MY田んぼ」(注・南伊豆の地場産直売所が毎年行っているオーナー制体験型農業)のお手伝いに参加したときにお声かけいただいたんです。スタッフさんのご自宅に立派なヤマモモの木があるんだけど、お酒に使えませんかと。湯の花さんが発売元のOEM商品としてリリースする予定です。

南伊豆の直売所「湯の花」でキュラーソーの販売会。左は、店長の渡邊純平さん


湯の花さんとは密に連携させていただいていて、今年、特に話題になったのが、九年母(くねんぼ)リキュールでした。
九年母は黒船来航の際に日本からのおもてなしとして出された食事の中に含まれていたと記録されている古いかんきつです。紀州ミカンの先祖にあたる品種らしく、その昔は国内でも広く食べられていたようですが、甘く品種改良された現行のかんきつの人気に押され、すでに経済性がないものとして扱われていたんです。
ただ、現行のみかんと比べてもかなり特徴のある香りで、お酒にするにはもってこいの素材だと感じました。

もともと、生産者さんに九年母を普及させたいという思いがあって、僕らのもとに直接お問い合わせをいただいたのがきっかけだったのですが、個人の生産者さんでは酒販免許がなく、製造しても納品後のお酒をただ配ることしかできませんでした。
どんなに思いがあっても、続けていくためには事業として収益を上げる必要があります。この課題に対し、酒販免許を持つ湯の花さんの商品として製造・販売すれば、その売上げで九年母の普及活動ができると考え、提案させていただきました。
湯の花さんからご快諾いただき、この6月に九年母リキュールの販売を開始したのですが、約1カ月で完売。大変ご好評をいただく結果となりました。

右から…最初に蒸留した「ブルーキュラソー」、「ワサビ」、新作の「ホールレモン」(伊豆産まるごとレモン)と「ババコウ」(南伊豆産)、「ニューサマー」、新作の「クネンボ」(幻の幻のみかんといわれる南伊豆産「九年母」)と「クレームドフレイズ」(南伊豆産イチゴ)

下田の酒文化をもっと面白くしたい!


——SNSを拝見していると、地元のイベントばかりではなく、名古屋や神奈川などあちこちに出向き、白浜蒸留所のお酒を精力的にPRされていますよね。さらに直営バー「白浜蒸留所リキュールスタンド」をオープン。白井さんご自身が店長として運営されるとのことで、リキュールの製造からPR、地域行事の参加などとの両立は大変だと思うのですが、なぜまちなかに直営店を? 

まちなかのスタンド外観

いくつか理由があるのですが、まず1つ目は「観光資源としての酒造施設」を実現するためです。
ウイスキーやジン、日本酒やワインなどお酒に興味をもった方々が進む次のステップとして「酒造の見学」があります。
お酒が好きで飲むうちに、このお酒がどういう場所でどういう工程を経て製造されているのかを知りたくなってくるわけなんです。ただ、白浜蒸留所は規模や立地など様々な理由から製造所の見学はお断りせざるを得ないのが現状です。
白浜蒸留所を観光の一つとして下田市に貢献したいという思いもあって、完全に思いつきだったのですが、駅から近い場所に飲食店としてリキュールを味わえて、ボトルを購入することもできる場所を作ろうという計画を立てました。
白浜蒸留所が世の中に進出すればするほど下田に行ってみたいという人が増えて、お酒の話を聴いて、まちなかで食事をしたり観光をしていってくれる。自分の事業がそんな形で地域に貢献できれば素敵だと思って、開店を決意しました。

バーテンダーの経験を生かし、スタンドでは自社製品だけでなくさまざまなお酒を提供している


2つ目は下田の方たちに向けた「お酒の提案の場」を実現するためです。
僕個人から見て、下田のお酒の文化はどちらかというとみんなでワイワイ酔っ払って楽しむという色が強いと感じています。もちろん僕はそういったお酒も大好きなのですが、静かに落ち着いてお酒を楽しむ飲み方も普及していきたいと思っています。
自分が今どんなお酒を飲んでいるのかって意外とロマンがあると思っていて、未体験のお酒のなかにもきっと好みのものがあるはず。飲み比べをしてどっちが好みか、とか、コレとコレはどう違うか、とか、絶対楽しいと思うんですよね。
お酒にあまり興味をもっていない方にも、そんな楽しさを感じていただくきっかけの場として、このお店が役立てられたらと。白浜蒸留所のリキュールをどう飲むのがおいしいか、とか、研究の場としても使っていただければ嬉しいです。

そうした普及活動から、まちなかでもっといろんなお酒が飲めるようになって、観光の方々にも下田を面白い土地だと感じてほしいという狙いもあります。

下田の海をイメージした青が映えるブルーキュラソーはお店でも人気


3つ目は「交流の場」を実現するためです。
リキュールスタンドでは、白浜蒸留所で製造したリキュールをカクテルとしてご提供しているのですが、実際に口にしてくださったお客様の反応を、製造している自分が目で見て耳で聴くことができるということにメリットを感じています。
今後の製品の開発や改良の参考にしたり、もっといろんな交流の場として店舗を活用できればいいと思っています。あとは結果論でもあるのですが、ありがたいことに実際にお店をオープンして、僕になにか用事のある方が来店してくださることも増えてきました。

もちろん、白浜蒸留所の事業としての売上のプラスにつなげたいという狙いもあります。でもそれよりもいまは、下田を面白くするために自分たちがお役に立てればという思いのほうが強いかな。

雇用を生み、カッコイイ製造業で移住者を増やす


――下田の酒文化をもっと面白く。私も大賛成です。居酒屋でもバーでもスナックでも、なんなら町中華でも蕎麦屋でも、定食屋でも、お酒にこだわりをもって個性的なお酒を揃えるお店が増えたら、このまちはもっとユニークになりますね。「こだわりの一杯が飲めるまち、下田」なんて。

本当にそう思います。まちなかを歩いて、いろんなお店をハシゴして楽しむ理由にもなりますよね。まちで飲めるお酒が多様化すればいろんなお酒を飲む方が増えますし、そうすればもっといろんなお酒を飲めるお店が増えていくのではないかと思っています。

お酒への興味を引き出すという点では、昨年から実施している「SHIMODAウイスキーフェス」にも是非注目していただきたいです。
“ウイスキーフェス”と銘打っていますがウイスキーを中心として様々なジャンルのお酒を試飲することができ、2024年からは一部ボトルの購入も可能になりました。今年は800名以上の来場者数がありまして、2025年も継続して開催を予定しています。自分の好きなお酒を見つけるという意味ではこれ以上ないイベントですので、次回の開催からも是非気軽に参加していただけると嬉しいです。

――ますますこれからが楽しみですね! 今後の展望や目標について教えてください。

イチゴのキュラソーをつかったカクテル

今年の10月末で酒造免許取得から1年が経ちました。ちょうどブルーキュラソーの原料の仕込みの時期でもあります。長い間再販を待っていただいていたボトルを今年はもっときちんと行き渡るように生産していきたいと思っています。まだまだ活用できていない素材もたくさんあると思うので、新しいチャレンジを継続して行っていきたいと思っています。

企業としてはこれから雇用を生み出すこともしていきたいと考えています。
まだまだ小規模のスタートアップなので人件費を割けないところがほとんどですが、しっかりと事業を安定させてメンバーを増やしていくことで観光以外の面でも貢献していければと思っています。

下田はお酒文化が充実していて、それをつくっている小規模メーカーがあったりしてめちゃめちゃ面白そうだ——。そんなふうに注目してもらえるようになれば、インバウンドのお客さまも含めてお酒で人を呼べる、移住者を増やせるカッコイイまちに下田がなれると思うんですよね。


お話しを伺いながら、アメリカ北西部の港町、ポートランドを思い出していました。手作り志向が強く、マイクロブルワリーやコーヒーロースター、皮製品や家具などのクラフト店、レコートショップや古書店などのスモールビジネスがひしめきあっている都市として、数年前にメディアがこぞってとりあげました。
「自分で酒をつくってみたい」という白井さんの最初の発露は、ポートランダーたちのものづくり精神、小商い魂と同じです。
下田を見渡すと、じつは手作り志向、小商い魂にあふれた魅力的な個人店がはたくさんあります。コーヒーの焙煎所や昔ながらの喫茶店、古着屋、アンティークショップ、天然酵母をつかったピザ屋…。昭和からつづく和菓子屋さんだって、手打ち蕎麦の老舗だってみなクラフトマンです。
そんな小商いのまち下田で新たに誕生した「伊豆下田 白浜蒸留所」は、下田の文化を新しい世代の価値観で継承する「MADE IN SHIMODA」なのだと思うのです。

地元の人が当たり前すぎて大事にできなかった柑橘や山の果実。その価値がわからないまま見過ごしてきた地場産のあれこれ……。
白井さんは、それらの眠れる産物たちを、あれもリキュールにしてみたいし、これも絶対おいしいお酒ができると、興奮気味に話してくれました。
おいしいもの、カッコイイもの、情熱がつまっているものに、ひとは自然と惹きつけられます。白井さんを中心とした白浜蒸留所の挑戦は始まったばかり。でも、すでに下田にクラフトリキュール旋風を巻き起こしているのは間違いありません。

地元の行事を大事にし、長く下田を支えてきた大先輩たちへのリスペクトも忘れない。そんな彼が下田の人びとと力を合わせて、どんな「酒のまち下田」をデザインしていくのか。ものすごく楽しみです。

みなさん、下田が世界に誇る、新たなブランド「白浜蒸留所」のクラフトリキュールをぜひ一度味わってみてください。下田の美しい海、太陽を浴びた果実、のびやかな空気…。私たちの愛する郷土の味がしっかり伝わってくるはず。
かつて黒船が下田に来港したように、今度は「MADE IN SHIMODA」のお酒を引っ提げて、「下田から世界へ」飛び出す番。世界の大海へ漕ぎ出した航海は、前途洋々です。